俳句

地球かな

白魚に透けて地球の影見ゆる

たんぽぽの絮が地球を擽りぬ

地球には麦藁帽がよく似合ふ

繭となる糸は地球に繋がれり

地球へと菌が飛んでは茸なす

手に林檎足の下には地球かな

鶴の舞ふかぎり地球は空廻り

地球蹴り縄跳の輪に入りける

 

 UMA(未確認動物)

龍は天にスカイフィッシュは深海へ

ヒマラヤ蹴って雪男身をひるがへす

オゾンホール潜りて不死鳥月へ飛ぶ

ケセランパサラン終末を冱て舞ふか

花圃見えて花さへ小突くユニコーン

ビッグバンより海髪の乱れの半人魚

青味泥がネッシー覆ふエルニーニョ

アナコンダと化すや槌の子の近未来

 

オブジェ・二〇〇五年夏

ビンラディン一滴の汗の血となるとも

シラクがタトウーの碇を下ろす苦潮へ

穴子の眼となりノ・ムヒョンの不夜城

野苺に届くまでスー・チーの黒い髪よ

ブレアへのごきぶりはほいほいと自爆

繭から青い糸を吐くかキムジョンイル

窓をたたく雹とプーチンの羽根ペンと

ブッシュの鼻より見え隠れの金蝿の翅

   自選五十句


     『春』

吾輩は猫なり猫を恋すなり

陽炎の尾頭つひに見てしまふ

花魁の道中ならずかぎろへる

穴出でて塞ぎ貌なりふさぎ虫

蝶々が口吻伸ばして日を捉らふ

KAPPA千匹横行許す春の宵

我とわが声ゆきちがふ朧かな

神々が薄墨こぼすおぼろかな

夜のさくら身一つ風に押されけり

こけしの目細きを春の愁ひとす

物くさの太郎祖として半仙戯

句も飴も舌にまろばせ四月馬鹿

砂に書く文字は詩となり鳥帰る

『夏』

白玉に臍なきものと知りてより

甚平が一の好みとのぺらぽん

時の日や鸚鵡は過去を饒舌に

真夜ひらりサロメにも似て熱帯魚

土用芽のつんつん人に頼らざる

鮨うまし戯れならず写楽顔

我とわがイワン馬鹿なり紙魚の跡

仙人掌の花の匂ひは日の匂ひ

釣られざま虹を吐きけり梅雨鯰

糸とんぼそなた淋しき一行詩

万緑の崖下に住み蜂を飼ふ

月涼し水面ぷくっと河童の屁

蕗の葉の傘は河童の君ならん

『秋』

押し開けの扉を押せば立つ秋か

風切りの鵯の羽音も里ぐらし

へこき虫攻撃防御黄にまみれ

毬栗やおのもおのもの棘の露

秋江といふカンバスに君佇たす

梓弓星の空音の秋は去ぬ

蜉蝣の哀しみは日に透けてしまふ

きのふけふ萩より生るる風を見き

埴輪の目を抜けてゆくらし秋の風

蚊相撲の別れ蚊なれど侮れず

逝く秋やインコ飼ふべき止むるべき

河童氏の伊達の瓢のぶらりかな

『冬・新年』

誰がための王冠ならん寒昴

シーソーに横座りすや雪女郎

短日や猫の小鈴の鳴ることも

信濃では仏陀冱つると思し召せ

あんこうの吊られて暗愚押し通す

水涸れて河童隠るる処なし

鳰潜り乙姫に告ぐことありや

狐鳴く野は血の色の日を落とす

裸木や一握の雲ちぎれちぎれ

朝からよピカソの鼻の冬蝿は

若草の思ひつく撞く手毬かも

売初めの夢いらんかや詩商人

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