半歌仙「音符」の巻    矢崎硯水捌

蜘蛛の巣の雫の音符唄わんか       矢崎 硯水

桜桃の実を衿に飾る児         北野真知子

クレパスで描かれし海の真青にて     矢崎 妙子

煙吐きつつ走るデゴイチ        吉本 芳香

父に似ぬ下戸に甘んじ月愛でむ      瀧澤 尚子

秋小寒とて首をすくめる           硯水

ウ 街角のカフェテリアでの菊花展        真知子

長髪袈裟のこの頃の僧            妙子

B型は涙もろくてお人好し           芳香

「タイタニック」を手をつなぎ観る      尚子

あのときにそれからそしてこうなって      硯水

半丁分の豆腐分けあい           真知子

底冷えの嵯峨野の月は尖りゆき         妙子

旅の疲れを癒す冬至湯            芳香

着痩せする質を誰にも知られずに        尚子

ポケット猿がいつも良き伴          硯水

脱サラの店を彩る花の枝           真知子

揺り椅子ゆるる暖かき午後          妙子

☆1998年7月24日首尾

半 歌 仙

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  津幡全国連句大会 大賞受賞(以下五巻)

半歌仙「スイートピー」の巻
 矢崎硯水捌

スイートピー人の希ひは星に似て     矢崎 硯水

桜貝三つ拾ふ遠浅           沖津 秀美

春ぬくし書肆の扉の開くらん       本屋 良子

日課となりし爺の寄り道        矢崎 妙子

十六夜の猫の会議を傍聴に           秀美

払ひても付く草虱など            硯水

ウ お地蔵の片頬欠けてそぞろ寒          妙子

見合写真の修正の技             良子

富良野産ニンフとなりて玉の輿         硯水

目隠しされて着きたるはどこ         秀美

銅と錫坩堝の中になひまぜて          良子

さて「倫理法」出来るものやら        妙子

サーファーが取り損なひし月の舟        良子

蟹うらがへり悩む啄木            硯水

わんこそば蓋するひまのあらばこそ       秀美

今朝見し夢の色は空色            良子

爛漫と花の咲き満つ山の裾           妙子

老神父さま行きてうららか          秀美

☆1998年2月9日首尾

    栃木県 国民文化祭 文科省大臣受賞


    半歌仙「梅雨鯰」の巻 矢崎硯水捌

釣られざま虹を吐きけり梅雨鯰      矢崎 硯水

涼しき風がさっと一陣             同

愛用の銀輪かるく漕ぎ出して       矢崎 妙子

観光マップ抜かりなく持ち           同

古城址の匂うが如き夕月夜           硯水

草虱(くさじらみ)など付けし犬ころ      同

ウ 秋深く葬送の列つづきたる           妙子

腕白坊主神妙な顔               同

ラジコン機大会のある岡の上          硯水

ケーブルテレビ取材入りて           同

青い目の嫁貰いたる香の店           妙子

夫の好みの閨の絵屏風             同

梟が鳴けば月影射しこめる           硯水

八雲の跡をたどりゆく旅            同

歩くたび鞄の土鈴ちりちりと          妙子

ゆれの大きな山の吊り橋            同

空模様妖しくどっと花吹雪           硯水

サリン桑原々々の春              同

☆1995年4月5日首尾

   三重県 国民文化祭 大賞受賞

 半歌仙「乙姫」の巻
    矢崎硯水捌

鳰潜り乙姫に告ぐことありや      矢崎 硯水

ほのぼの夢を誘ふ小春日       矢崎 妙子

試験場バイオの野菜色よくて         硯水

百葉箱が白くひっそり           妙子

いつか来た道にも見えて月今宵        硯水

盗人萩の大き一ト叢            妙子

ウ とんぼうに肩を越さるる修行僧        硯水

後ろ姿の残る眼うら            妙子

恋しても画家とモデルの線を出ず       硯水

美に殉じたる男つれなき          妙子

聖堂のステンドグラス燦然と         硯水

急に夏めく長崎の旅            妙子

久びさの冷酒の酔に月ゆれて         硯水

猫の尻ッ尾を踏みさうになる     矢崎 高史

折にふれ引き上げ狙ふ消費税         硯水

予測もつかぬ気圧前線           高史

ふる里に父を葬れば花吹雪          硯水

湖渡りくる風の温か            妙子

☆1994年4月15日首尾

   半歌仙「団栗」の巻      矢崎硯水捌

団栗を拾ふ小さき詩をひろふ       矢崎 硯水

梢にかかる淡き夕月          吉池 保男

やや寒の厨の窓は開けられて       矢崎 妙子

鯛の反り身に塩をたっぷり       軍司 路子

二代目の威勢よき声聞こえつつ      久我 妙子

まぶしきほどに光る銀嶺           硯水

ウ 止まり木の鷹の眼の動かざる          保男

計画予定どれも外せず         (矢)妙子

当然の胃の激痛は耐へがたく          路子

順番札を手に持ちしまま        (久)妙子

インドから恋の占星術師きて          硯水

香油をかける肌黒き巫女           保男

絵扇の風は右より左より         (矢)妙子

月の傾く明け易き空             路子

銀行も破産するのと児に問はれ      (久)妙子

橋龍さんへご隠居の喝(かつ)        硯水

内堀を埋め尽くさむと落花霏々         保男

旅路の果てはおぼろおぼろに      (矢)妙子

☆1997年12月4日首尾

河北潟」の巻        矢崎硯水捌

ほととぎす一ト声月の河北潟        矢崎 硯水

香りしるけき浜木綿の花            硯水

FAXで亦も付句の届くらん        渡辺 梅子

虫笑いして眠るみどり児            梅子

窓際のモビール風に揺れ出して       矢崎 妙子

電光ニュース街に流るる            妙子

ウ 懇ろに執り行いし利休の忌            硯水

袖振れあうも暖かき午後            妙子

捨て猫を抱きし女と花の茶屋           梅子

億の値のつく浮世絵のなぞ           硯水

思い立ち五十三次旅つづけ            妙子

新幹線が爽やかに過ぎ             梅子

産土神のマメロル枝にたわわなる         硯水

ケーナを吹いて月のイベント          妙子

妖精の踊れば侏儒も足拍子            梅子

しっかり守れ核の廃絶             硯水

初雪に山の頂上燦々と              妙子

牡丹鍋にて酌み交わす酒            梅子

2001年9月14日起首

2001年9月22日満尾

 

   半歌仙「吉書」の巻    矢崎硯水捌

くさまくら「旅」の一字を吉書とす    矢崎 硯水

左右に刎ねる伊勢海老の髭       軍司 路子

梅林の蕾ほろほろほころびて       高山 紀子

温みし水にブイが漂い         矢崎 妙子

朧月掲げチャリティー・コンサート    吉本 芳香

眼鏡の人は取材なるらん           路子

ウ 御祭の見世物小屋と天狗面           硯水

桜桃の実を口にころがし           芳香

痴話喧嘩ぽんと石蹴る幼ナ妻          妙子

ボクの翼の下にお休み            紀子

詐欺師にてオスカー賞を受賞せる        硯水

苦節十年身に沁みる酒            路子

晴れ渡る空に孤高の望の月           紀子

ローカル列車芒なびかせ           妙子

中世の面影今に古都トレド           芳香

時代を突けよ闘牛の角            硯水

鼓笛隊拍手を浴びて花吹雪く          路子

カメラ通して笑う山々            紀子

2000年10月17日首尾